用語集GLOSSARY

近江八景 おうみはっけい

 近江八景とは、琵琶湖周辺の代表的な名勝8カ所を選んだものです。鎌倉時代後期に日本にもたらされ室町幕府足利将軍家や朝廷、京都五山の禅僧を中心に画題や詩題としてもてはやされた中国の『瀟湘八景』が本歌です。

 瀟湘八景とは中国湖南省を流れる瀟水と湘江が合流する辺りと、洞庭湖(どうていこ)の広大な水景一帯の八つの情景のことです。室町時代には、その瀟湘八景をもとにさまざまな日本の風景が漢詩に詠まれることになりましたが、現行の近江八景が登場するのは江戸時代の初め頃に寛永の三筆として知られる近衛信尹が詠んだと伝わる和歌がその初めとされています。その関白近衛信尹の和歌と合わせて近江八景を紹介します。(南から北へ)

・石山秋月 [いしやま の しゅうげつ] = 石山寺(大津市)

  いし山やにほ(鳰)のうみてる月影は明石もすまも他ならぬかわ  【秋】

・勢多(瀬田)夕照 [せた の せきしょう] = 瀬田の唐橋(大津市)

  露しぐれ守やまとほく過来つつ夕日のわたる勢田の長はし    【春】 

・粟津晴嵐 [あわづ の せいらん] = 粟津原(大津市)

 雲はらふあらしにつれて百ふねも千ふねもなみのあわづにぞよる 【春】

・矢橋帰帆 [やばせ の きはん] = 矢橋(草津市)

  真帆かけて矢橋にかへる舟はいまうち出のはまをあとの追風   【夏】

・三井晩鐘 [みい の ばんしょう] = 三井寺(園城寺)(大津市)

  思ふその暁ちぎるはじめぞとまづきく三井の入あいのかね    【春】

・唐崎夜雨 [からさき の やう] = 唐崎神社(大津市)

  夜の雨におとをゆづりて夕風をよそに名だつるから崎の松    【夏】

・堅田落雁 [かたた の らくがん] = 満月寺浮御堂(大津市)

  峰あまたこへて越路にまづちかき堅田になびきおつるかりがね  【冬】

・比良暮雪 [ひら の ぼせつ] = 比良山系(大津市)

  雲はるるひらの高根の夕ぐれは花のさかりにすぐるころかな 【冬 初春】

 

 近江八景は和歌や漢詩、絵画の題材として用いられただけでなく、工芸品の意匠としても積極的に取り入れられました。陶磁器や漆芸を中心に茶道具や文房具、書院の道具にその意匠は華を添えてきました。